イントランジット・アクション


ハビー・ベニテツのコンテンツ『オラ・ハポン!』を扱う上で、イントランジット・アクションは説明しておく必要があると思い、このブログを書きました。

イントランジット・アクションは日本語で言うと「行為中の動作」ぐらいでしょうか。

例えば、グラスを動かしてからテーブルを拭いた場合、その一連の流れはテーブルを拭く行為と見なされます。もちろんグラスを動かす動作も知覚されますが、それはテーブルを拭くのに付随する動作であり、二義的な意味しかないため、処理が浅くなります。論理的思考や批判的思考の対象にはならず、記憶にも残りません。テーブルを拭き終わってから、グラスを動かしたか尋ねても、「それは(意識して)見ていなかった」となるはずです。ごく稀に「グラスは、中央から右に動かし、そのあと左に動かしましたね」というように情報が欠落しない人もいて、そういう人はいわゆるスペイン派のマジックが全く不思議に見えなかったりしますが、まあそれは例外です。

技法をイントランジット・アクション、つまり主たる行為のための副次的動作にすることで疑われにくくなります。同じフォールストランスファーでも、単にコインを渡すより、ペンを取るためにコインを渡すようにしたほうが疑われません。

アスカニオはイントランジット・アクションを非常に重視していました。その原理自体はアスカニオ以前からマジックで使われていましたが、それにこの名前を付けたのがアスカニオです。命名は重要です。名前があるからはっきりと認識できるのです。名前を知った花は道端で目に留まるようになります。ミスディレクションという言葉を知っているから「いまのはミスディレクションだ」とわかります。「どこかに注意が向いていたら他への注意が薄くなるので、いまのはそれを使った」とはなかなかなりません。名前がないと長ったらしく説明的な言い回しになり、それは考察するときにも脳のメモリを圧迫します。だから専門用語があるわけです。イントランジット・アクションという言葉を覚えてください。

アスカニオの弟子であるハビーも、当然イントランジット・アクションを重視しており、『オラ・ハポン!』でもイントランジット・アクションを多用しています。そして、その細やかで巧妙なやり方に私は感動を覚えました。このコンテンツはいろんな見所があるのですが、上質なイントランジットアクションの例が多く見られる点でもおすすめです。

 

ポン太 the スミス

関連ブログ