オフビート
ブログへの注目が下がってそうなこのタイミングは、オフビートを書くにぴったりでしょう。
ミスディレクションは注意がどこに向くかという話でしたが、注意力には時間的なムラもあります。観客の注意力が落ちているとき、その状態をオフビートと言います。逆に注意されている状態がオンビートです。厳密には、注意に2つの別の状態があるのではなく連続体になっています。
注意力を下げたいとき、高めてから落とすことでガクッと下がります。そのタイミングで技法をすると気付かれません。この原理はスライディーニが重視しており、実際に彼はオフビートの達人でした。スライディーニのペルソナがそれに向いていたというのもあるでしょう。あの独特の動きで場をコントールしていました。ジーン・マツウラによると、普段のスライディーニはあんな仕草ではないそうです。ともかく、張りから緩みが生じます。テンションとリラックスです。
ここで思い出されるのが、桂枝雀の「緊張の緩和理論」です。笑いとは緊張の緩和である、というのが枝雀の主張で、これがオフビートと重なります。実際、オフビートのタイミングで笑いは起こりやすく、また、観客が笑っているときに技法はバレにくくなります。
オフビートにも強弱のレベルがありますが、通常、盲目的な状態にまではなりません。ミスディレクションのブログで述べましたが、非注意性盲目は注意力の高いときに起こります。強いミスディレクションはオンビートです。弱いミスディレクションはオフビートのタイミングでもいけます。
オフビートを使うには、まず刻々と変わる注意の波を把握する必要があります。それに尽きると言ってもいいでしょう。ミスディレクションやオフビートなどの対人スキルは、観客の注意をどれだけ察することができるかです。注意の時間的・空間的な分布がわかるなら、その隙をつくことは、水たまりを避けて歩くぐらい容易になります。
中国武術には、相手の身体の声を聴くというニュアンスの「聴勁」という言葉があります。相手の出方がわかるから、自分の出方がわかるわけです。ダニ・ダオルティスなどを見ると私は聴勁を感じます。マジシャンはもっと聴く意識を持ったほうがいいと思います。オフビートの肝はビートを聴くことです。
ポン太 the スミス