「見る」の種類
前回のブログではミスディレクションについて書きました。今回はそれを補足する内容となります。
タイトルにある通り「見る」には種類があり、例えば英語ではsee, look, watchに分かれます。ベンに聞いたところ、中国語でも同様の区別があるらしく、日本語で区別されないのは意外だとのことでした。
言葉を区別しないことは、認識を区別しないことにつながります。実際、日本人は「見る」の差異をほとんど気にしていないように思われます。もちろんそれで日常生活に支障をきたすことはありません。しかし、マジックを分析するにときは「見る」の区別が重要です。
see, look, watchの違いをおさらいしておくと、seeは「見る」というよりも「見える」が近いでしょう。視界に自然と入る感じで、意識的な行為でなく受動的です。能動的・意識的に目を向けて見るのがlookです。そして、さらに集中力が高いのがwatch で、特に動くものについて使われます。
マジックには当然、見せるべきものと見せるべきではないものがあるわけですが、その区別だけでは十分ではなく、見せるべきものについてはどのモードで見せるのかを考える必要があります。例えば、フォールストランスファーを見せる場合、seeが良いのかwatchが良いのかということです。
見るモードによって当然その後の処理も変わってきます。seeは自動的に発生するので、その後も自動的で浅い処理なります。分析的思考を伴わず、記憶に残りません。watchは意識された状態で深く(ときに分析的に)処理されて、記憶にも残ります。
watchさせたいことは、注意を促して行います。seeにしたい場合、ルックアップなどseeになる程度のミスディレクションをかけます。ルックアップとは、手元を見ている状態から観客側へ視線を上げることです。そのとき観客は演者の顔をlookし、その結果として手元がseeになります。
非注意性盲目を起こすには、前回のブログでも述べたとおり強いミスディレクションが必要なのですが、そのとき別の対象を見せるモードはwatchが適しています。
もっとも、これらの議論は単純化しすぎており、実際にはそれほどはっきり場合分けできるわけではありません。しかし、「見る」のバリエーションに注目することで、ミスディレクションをはじめとするマジックのセオリーがいろいろ見えやすくなります。
ポン太 the スミス