サーストン
ハワード・サーストンと言えば日本ではサーストンの3原則が有名です。
■サーストンの3原則
原則1.マジックをする前に現象を言ってはならない。
原則2.同じマジックを繰り返し見せてはならない。
原則3.種明かしをしてはならない。
原則1に関しては、そのマジックの狙いが意外性による驚きである場合、正しいです。しかし、マジックは予想外のビックリだけではなく、何がくるかわかった上で「それはありえない……マジか!」というタイプのものもあります。これはサプライズとサスペンスの違いで、その辺の話はペペ・カロルの『52 Lovers』に詳しく載っていますので、ぜひお読みください。
サスペンスになるものは、現象を事前に言って問題ありません。むしろ、言うべきだという意見もあります。ダニ・ダオルティスもそう主張していました。好きなカードを言ってもってからテーブル上の1枚をめくって当たっていることを示す場合、前もって宣言したほうが不思議だろう、と。問題は達成が難しくなることです。しかし、それは方法論の問題であり、現象面の問題ではありません。現象を言うとハードルが上がります。上げないほうがいいのかというと、そのハードルを越えられるなら上げたほうがいいし越えられないなら上げるべきではない、 と言えると思います。
原則2の理由は、繰り返すと意外性がなくなるし、バレやすくなるのでやめましょうということですが、これも原則1と同じことが言えます。繰り返すことでハードルは上がりますが、達成したときの威力も上がっていきます。1回では軽いエフェクトも反復で厚みを持たせることが可能です。アンビシャスカード、クレイジーマンズハンドカフス、スライディーニシルクなど、リピートによる傑作はたくさんあります。もちろん反復が適しているかはそのトリック次第なのですが、少なくとも最初から除外されるべき選択肢ではありません。
原則2を間違って覚えている方がいらっしゃいまして、それが超絶にクールだったので紹介しておきます。
「同じマジックは二度としてはならない」
原則3については議論が複雑になるのでここではあえて踏み込みません。
サーストンの3原則は初心者へのアドバイスだとも言われます(参考:Speakers:小野坂東 Part6)。確かに初心者には有益かもしれません。しかし、参考動画でトンさんが言うように、その先に進むなら、違う見方も必要だと思います。
サーストンは3原則ばかりが知られていますが、私がサーストンで知ってほしいのは彼の舞台袖での習慣です。
カーテンの陰から観客席を覗いてつぶやきます。
「皆さんショーにお越しくださいましてありがとうござます。I love you, I love you, I love you, …」
彼はいつも観客への愛を復唱してからステージに出ていました。そして彼はいつも観客から愛されていました。
サーストンから最も学ぶべきなのはこの姿勢だと私は思っています。
ポン太 the スミス