ザ・ジャークス

ザ・ジャークスは英語で書かれたもっとも影響力のあるブログです。数千のブログ投稿、数百のニュースレター、そして4冊の本など、そのアウトプットは驚異的です。多くのマジシャンがジャークスのことを知っていますが、ほとんんどの人が(私も含め)、彼が誰なのかを知りません。アンディというペンネームの著者は、マジックのプレゼンテーション(特にアマチュアパフォーマー用)における多くの部分で革命を起こしてきました。プロットやルーティンのたくさんのバリエーションを彼は創りましたが、一貫したアプローチはすべてがカジュアルに見え、準備がないように見えることです。

英語が得意な方はこのブログをチェックすることを強くおすすめします。すべてに目を通すのは膨大な時間がかかると思いますので、私のお気に入りをご紹介すると、マジカル・ジェスチャー(指パッチンの問題)に関する彼のすばらしエッセイ、フォースのケーススタディテンヨートリックのための見事なプレテーションです。

私はザ・ジャークスの数年来のファンで、マジックの演出や演技に対する私の考え方は、それに多大な影響を受けてきました。彼の冬のニュースレターで私のドロップシャフルが取り上げられて推薦してもらえたことはとてもうれしいことでした。さらに彼のレパートリーに加わりそうだとのことです。まだ買っていない方はこの商品をチェックすることを強くおすすめします。

 

ベン・ダガス

言葉を選んでください

普通のブログに加えて、ビデオブログも投稿していこうと思います。プレゼンテーションやセオリー、テクニック、トリックについての内容を考えています。

第1回目の今回は、カードを選んでもらうとき、使う言葉がマジックにどう影響するか、というテーマです。英語ネイティブではない方が英語でマジックをやるときに参考になると思いますし、日本語の「選ぶ」や「取る」、「引く」などでもこれに似た議論が可能でしょう。考えるきっかけになればうれしく思います。

ブログのフォーマットの問題で、少し変なレイアウトになっていますが、近々直します。

今後取り扱ってほしい内容がありましたら、ぜひご連絡ください。

 

ベン・ダガス

どのコインを使うべきか

「マジックにはどのコインを使うのが良いのか?」という質問をよく聞きます。私の答えは決まって「場合による」です。実際に何のルーティンをするのかを考慮しなければならないのは自明でしょう。特定のギミックが必要で、選択肢がひとつしかないのなら決定は簡単です。でもそのような制約がなく、例えばワンダラーサイズコインを選ぶ場合、ダブルフローリンかアイゼンハワーかチャイニーズコインかポーカーチップかをどのように決めればいいのでしょうか。考える価値のある要素は4つあると思います。どこにウェイトを置くかはあなた次第。あなたのキャラクターや演技スタイルで変わってきます。

1.視認性
若い(とても賢い)モーリッツ・ミュラーは可能な限り最大のものを使うようにしています。使用しているのはワンダラーより2ミリ大きいシルバーイーグルです。彼の場合、理にかなっていると思います。非常にビジュアルなスタイルでは、コインはお金というよりも物体です。観客にとっても、通貨か何かではなく、見えやすいかどうかが重要になります。

2.妥当性
このあいだロンドンに帰省したときに多くのストローリングマジシャンを見る機会がありました。彼らが使っていたのは2ポンドです。その見た目や直径から、デビッド・ロスやミゲル・アンヘル・ヘアが造幣局のコンサルタントをしていたかったことがわかります。ハーフダラーより少し大きく、ワンダラーより厚みがあります。そして金と銀の陰影は鮮やかではありません。でもそれは特定の仕事では完璧な道具になります。ロンドンのストローリングマジックは直接的で自然で即興的です。その場でモルガン銀貨を取り出すとそのフィーリングは壊れてしまうでしょう。1人の例外はブレンダン・ロドリゲスというパフォーマーでした。彼の派手で劇場的でビジュアルな演技では、アメリカの大きいコインが合っていました。

3.プロット
コインと現象を合わせることでマジックの意味はより深まります。どちら側から寄せることも可能です。特定のプレゼンテーションがあるのなら、もちろんそのテーマにあったコインを探せばいいでしょう。ギャンブル系の現象であれば、ポーカーチップがいいかもしれません。逆に、個性的なコインが、プレゼンテーションを示唆することもあります。そのコインが持つ音や色が、あなたの創造性をかきたてることもあるでしょう。

4.キャラクター
考えてみるべきだと思うのは、あなたが使う(コインも含めた)すべての道具はパフォーマーとしてのあなたを物語るものであるという事実です。理想的な世界では、あなたは何を使うのでしょうか。私の「英国紳士」というペルソナでは英国の硬貨になります。現行の通貨ではありません。私が使用しているのはダブルフローリン(130年間も使われていません)かチャールズとダイアナの記念硬貨(流通していた通貨ではありません)です。これらは他のどのコインよりも私のショーの雰囲気に合います。

最後に、一貫性というのも考えなければならないポイントだと思います。演技に使用するコインは一種類であるのが理想です。異なる技法やギミックでは異なるコインが好都合だったりするので、それが難しいことはわかります。でもそれはあくまでマジシャンの視点です。もし本当に魔法ができるなら、ワンダラーからハーフダラーにコインを変える理由はありません。それは「このコインはこのトリック用で、このコインはこのトリック用です」と観客に言っているようなものです。少し辛口かもしれませんが、カードマジックの場合を考えてください。マジシャンは演技中にデックスイッチするために苦労しています。もちろん単に色違いのデックを使うこともできますが、それが適切な行為だとは誰も思わないでしょう。コインマジックでも同じ基準を持つべきだと思います。プレゼンテーションでコインを変えることが正当化できるなら問題ありません。でも変えるための良い理由がないのなら変えないほうがいいでしょう(気づかれずにコインを足したり引いたりスイッチしたりすることは可能です)。私のショーでは、コインをチャイニーズコインに変化させてから元に戻し、見えない袖を移動させ、そして半分をかじります。(観客から見ると)ずっと同じコインが使用されています。

どのコインを使う場合でも、あなたのキャラクターやプレゼンテーションやマジックについて、そのコインがどういうメッセージを持つのかをぜひ考えてみてください。

 

ベン・ダガス

クレジット問題

クレジットをきちんと付けるべきだと我々マジシャンはよく言います。しかし、実際的にも哲学的にもそれは決して簡単ではありません。

このテーマで書くことになったきっかけはミッキー・ウォンというマジシャンです(スーパートリプルコインの人とは関係ありません)。シック2のティーザーで流れている3フライについて彼が不満を持っていることを我々は間接的に聞きました。何をクレジットしなかったと言うのでしょうか? プロット? 違います。それはクリス・ケナーのものです(ジョナサン・タウンゼントのルーティンにさかのぼることができます)。ルーティンのフェイズ? 違います。テクニック? おしい! でも違います。正解はなんでしょうか。

ミッキーの苦情は、バックサムパームをするときポン太がローレンス・ゴードンから習った中指の代わりに人差し指を使ったことでした。書き間違いではありません。違う指でやっただけです。より正確に言うと、新しい指でもありませんでした。ローレンス・ゴードンに確認したところ、彼もその指を試し、最終的に採用しませんでした。もっとも、その指が誰の発案なのかというのはポイントがずれています。そんな微妙なことにクレジットを求めるのは2つの大きな問題があります。ひとつは現実性の問題です。名前も知らない香港のマジシャンが思いついた本にも動画にも発表していないことをポン太が知っていたとしたら、彼はコインマジシャンというよりは一流のメンタリストでしょう。誰も思いついていないアイディアであることを確認するために世界中のローカルクラブを訪れなければならないのでしょうか。決して調べる必要がないと言いたいわけではありません。でもそこまで細かいところまでしないと不十分ならば、誰も発表する自信と時間が持てないことになります。

2つ目の問題は、もっと根本的です。マジックでは、とくにコインマジックでは指を変えることは誰もがすぐに試すことです。指違いは誰のものでもないのかもしれません。クレジットは白と黒に分かれるものではありません。片方の端にはゼロから作られたルーティンがあります。それはあきらかにクレジットする必要があるでしょう。もう片端には、既存のカードルーティンをそのまま、青いバイシクルの代わりに赤いバイシクルを使うだけの「アイディア」があります。まともな判断力がある人なら、それがクレジットに値するものだとは言わないはずです。しかし、ほとんどのマジックはこの間のどこかになります。問題はクレジットが大切かどうかというよりもどこで線を引くかです。

ミッキー・ウォンの場合、クレジットの必要性はかなり疑問です。それでも、ポン太はミッキーの苦情を聞き、彼をクレジットに加えました。しかし、残念ながらそれはこの話の終わりではありません。シック2の日本語版が出たとき(英語版は1週間後に出ました)、ポン太のクレジットに不満がある、とまた間接的に聞きました。しかしそれは日本語の誤解によるものでした。英語版が出たときに、彼がクレジットに納得する形で事態は終結しました。と、思っていました。が、また先日、ポン太が許可なしで発表したという書き込みが、彼の知り合いによってSNSに投稿されました。

アイディアを盗むことや人の貢献を認めないことはマジックの深刻な問題です。でも公然と他者を非難するとき、正しい根拠と正しいやり方で行わなければなりません。証拠もなく、本人と直接話そうともせず、指さして(人差し指©ミッキー・ウォン)中傷することは何の解決にもなりません。

ベン・ダガス

海賊版問題

ドロップシャフルをリリースしてわずか5日後に海賊版が2ドルで販売されているのを発見しました。私がいま抱いている感情は、残念ながらすべてのクリエイターが味わったことのあるものでしょう。でも私にとっては初めての体験だったので、この気持ちを共有したいと思います。これが残念だと思うのには、3つのあきらかな理由があります。

まず、単純に盗まれたという感情。撮影や編集などのすべての努力の成果が、ペイパルのリンクを貼っただけのやつの銀行口座に行くのは腹立たしいとしか言えません。これまでに買ってくださった(それほど多くない)お客様のなかに、泥棒が混ざっているのも複雑な気持ちです。

そして、これからのプロジェクトも同じ運命を辿ることを思うとそれも残念です。アーティストが費やした多くの努力と時間と愛が報われないのは胸が痛みます。それがマジック業界を滅ぼしてしまう要因になることはあきらかでしょう。しかし、滅んでいない事実が意味するのは、ほとんどの人が安い海賊版の存在に気付いていない、あるいは(私はこちらを信じたいですが)、アーティストの創作をサポートするための選択をしているということです。

あと、海賊版を買うことは自分を騙すことになります。初期投資が自分の態度に影響すると私は考えます。ルイ・ビトンのコピー品がすぐに壊れてしまうのは、品質が低いからだけではなく、所有者が丁寧に扱わないのもその理由です。同じことがマジックでも言えます。公式サイトで購入した正規品の動画の見方は、違法にダウンロードした海賊版の見方とかなり違ってくるはずです。

我々にはマジシャンとしての選択があります。クリエイターのためにも、業界のためにも、自分のためにも、正しい選択を願います。

 

ベン・ダガス